研究は当該主題に関する我が国における実質的に最初の試みにあたるため、まず資料の収集から着手した。その結果、当初の予想を上回る文献が、図版もふくめ入手することができた。また、2000年9月と2001年3月の2度にわたり、延べ27日間の資料調査および研究者との交流を目的とするイタリア出張を行い、とりわけフェッラーラ在住期の雑誌『造型価値Valori Plastici』のオリジナルをはじめ、貴重な図版をふくむ1次資料を閲覧する機会と、当該主題に関する本国の稀少な研究者ステーファノ・ザンピエーリ氏など多くの20世紀前半のイタリア文学・芸術を専門領域とする諸氏から的確な助言とを得ることができた。 具体的な研究内容については、サヴィーニオの生涯を再構成するかたちで、(1)ギリシャでの幼年時代と神話体験(2)父親の死を契機にはじまるミュンヘン、パリにおける青年時代の芸術遍歴(音楽の師マックス・レジェ、アポリネール、ピカビア、ブランクーシ、コクトオ、ピカソ、ジャコブとの出会い)(3)第一次大戦による〈イタリア〉の発見と失望(雑誌『造型価値Valori Plastici』創刊=兄弟によるフィレンツェ、フェッラーラでの前衛芸術運動、ツァラとの交流、デ・ピシス、カッラとともに〈形而上派絵画〉の推進、演劇への傾斜)(4)パリとの再会(1926〜33:女優マリア・モリーノとの結婚、エルンスト、アラゴン、ブルトン、ベルンハイムとの交流、最初の個展、作家の自覚)(5)ファシズム体制下の旺盛なジャーナリズム活動(懐疑とアイロニーの力)(6)戦後スカラ座での活動(コクトオ、ストラヴィンスキイ、オッフェンバックのオペラとバレー)の8期に分け、アヴァンギャルドの時代からファシズム体制を経て戦後へといたる半世紀を「ヨーロッパ人」として生きたサヴィーニオの軌跡が、国境のない文化共同体のありようの先駆けであったことを検証すべく作業した。
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