今年度はアルベルト・サヴィーニオAlberto・Savinioの第一次世界大戦直前期からいわゆる両大戦間の時代における表現活動に焦点を当て、その領域が音楽から絵画・文学へと拡大しつつ変化していく様を一次資料にもとづき、実証的に検証しつつ、その後のファシズム体制下における表現成果の特異性を抽出する準備につとめた。 その成果の一端は、2001年7月イタリアのペスカーラにおいて開催された国際シンポジウム「世界のなかのイタリア文化」においても、また昨年度より月刊誌『國文學』誌上で連載中の「境界の侵犯から」においても披露した。 だが現段階における成果についての集約的な論文は、2002年3月刊行予定の『モダニズムの越境』(人文書院)収載の「ファシズム下において無国籍者であること--アルベルト・サヴィーニオをめぐって」である。 この論文は、サヴィーニオの第一回目のパリ滞在から第二回目のパリ滞在までの時期に産みだされた多様なジャンルの作品を分析することによって、そのすべてがファシズムに象徴される抑圧のシステムに抗するための《解放》の方途を模索することに収斂していく表現行為であったことを跡づけるものである。 今後は、とりわけ絵画作品と演劇作品を中心に、1952年に生涯を閉じるサヴィーニオの後半生における活動について、シュルレアリスム運動の渦中にあった前半生の経験がどのように刻印され、そして変形されることになったのかを検証することになる。
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