研究概要 |
本研究は,ロシア・ソヴィエトにおいて発達した内容的言語類型論を三つの側面から研究したものである. 第一の側面は,内容的類型論を歴史的側面より研究したものであり,特に1930-1950年代に焦点を当てて,この内容的類型論の成立と発達の経緯を文献的に跡づけた.この研究成果は,石田修一の研究報告書,「ソヴィエト言語学史再考」による研究である. 第二の研究の側面は,内容的類型論の理論構築に関わるものである.これは特に印欧語の他動性の諸問題についてデスニッカヤ等のロシアの研究者の研究を中心に検討した.この成果として,山口巌の内容的類型論から考察した印欧語の時制についての研究報告書,「時間と時制についての一考察」がある.また柳沢民雄の「印欧語における他動性について(1)」は,内容的類型論を踏まえてロシアの印欧語研究を纏めたものである. 第三の研究の側面は,具体的な能格言語の言語事実を基に内容的類型学の検討と発展を目指した研究である.柳沢民雄は平成12年度と平成13年度の夏にグルジア共和国トビリシ市にてアブハズ語話者より言語調査を行い,アブハズ語動詞の構造を調査した.調査の内容は動詞の基本型の活用をアクセントも含めて記述,分析した.また各文法範疇を出来る限り調査し,これを記述,分析した.この研究成果は,柳沢民雄の研究報告書,「アブハズ語動詞構造概説」である.これらの分析を通じて,ロシア・ソヴィエトの内容的類型学が目指した方向の正しさを確認することができた.しかしアブハズ語の調査に関しては,時間的な制約のために調査できたのは,アブハズ語の動詞の基本語彙の活用と基本的な文法範疇のみであり,未だテンス・アスペクト範疇や統語論の調査が不十分である.これは今後の言語調査の課題である.
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