今年度は、昨年度の研究で明らかになったことがらをふまえ、2つのテクストを中心に言語分析を進めた。一つは、12世紀から13世紀に作成されたと考えられている、初期グラゴール文字テクスト《グルシコヴィッチ使徒行実断片》である。 この原稿の写真版と校訂テクストをクロアチア国立図書館に赴き複写を入手して分析した。その結果、グラゴール文字の特徴と、余白に書き込まれたキリル文字の文言から、これが14世紀にバルカンに広く勢力を持ったボスニア王国の領域内のどこかで作成された可能性を明らかにした。この研究は論文としてまとめ、講座論集『デュナミス』5号に発表した。第二のテクストは、13世紀の末にダルマチアの北西部沿岸で作成された《ヴィノドール法令集》で、この時代の同種の法律文書の大部分がラテン語で記されているのに対し、この法令集は土着のチャ方言を強く繁栄した南スラヴ語で、かつグラゴール文字の筆記体で記されている。内容は、古いスラヴの慣習法を封建社会の成文法に融合させたものと考えられ、その言語とともに中世南スラヴ文化のあり方をしる貴重な文献である。このテクストの分析は、昨年研究対象とした同じグラゴール文献の《イストラ境界区分》との比較を加えながら、現在続行中である。
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