平成12年度には、クロアチアにおけるグラゴール文字文化の成立に焦点をあて、先行研究で明らかにされていることがらを整理しながら、この文化の成立が、9世紀から13世紀にかけてのバルカン半島における歴史的事情に関わっていることを概観した。また、15世紀にイストラ半島で成立したグラゴール文字文献Istarski razvodを取り上げ、文字、音韻、形態論的特徴を、先行研究によって明らかにされている、その他の南スラヴ文献の言語特徴と比較しながら検討した。 平成13年度には、12年度からの継続で、グラゴール文字テクストの分析を進めた。特にクロアチアグラゴール文字文化の由来を探るために重要かつ、グラゴール文字文化とキリル文字文化の接点を知るために重要な「グルシコヴイッチ<使徒行実>断片」の言語分析を行い、クロアチアのグラゴール文化が、マケドニアからボスニアを経由して北上した可能性について検討した。 平成14年度には、これらの研究成果をふまえ中世チャ方言の動詞文法範疇について分析を行った。この研究成果は、平成15年8月にスロヴェニアで開催される国際スラヴィスト会議で口頭発表する予定である。また平成14年度には、南スラヴにおいて最も古い成文法の一つである『ヴィノドール法(Vinodolski zakon)』を取り上げ、その構文特徴を、おなじ南スラヴ文献の『ドゥシャン法典(Dusanov zakonik』ならびにロシアの『プスコフ裁判法(Pskovskaja sudnaja gramota)』と比較し、それぞれの言語の統語論的特徴を検討し比較統語論への試みを提示した。
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