本年度の成果として、まず第一に、ジェンダーによる内面化が書き言葉にどのように影響を与えているのか、言語学と女性学関連の文献にあたり、批判的に概観した。そこでは、日本における男女役割分業体制に裏打ちされた「らしさ」が巧妙に内面化され、維持されていることが分かった。言語学関連の研究においても、男女をめぐる表現の非対称性や、男女が使用する表現の差によって証明されているが、書き言葉におけるジェンダーについては、具体的指摘があまりなされていないことも確認できた。 そこで、第二に、新聞投書に注目し、特に、戦後から現在までの新聞投書の文体・内容等を調査してみたところ、書き手の性によって、文体(ですます体)や内容(公的・私的)に差のあることが確認できた。 以上の二点をふまえ、新聞投書の中で、特に、山一証券自主廃業をめぐる投書をとりあげ、そこにみるジェンダーをいかに認識しているのか調査を試みた。大企業とされる会社の廃業をめぐって、投書欄でも反響があり、事の大きさを示しているが、それよりもさらに特徴的なのは、大企業では、いかに男女役割分業体制(男は仕事、女は家庭)が貫徹して成立しているのかということが、投稿者の性を通して、如実に物語っていることが分かった。例えば、男性投稿者であれば、会社や政府への批判が多く、女性投稿者であれば、社員、または社員の家族への励ましが多くみられるのである。これらの特徴と、文体(ですます体を使用しているかどうか)を考慮し、8つの投書を選びだし、個人情報をふせて、読んでもらい、投稿者の性をあててもらった。今年度は、主に学生を対象に調査したが、結果として、大企業に典型的にみられるジェンダーを認識しているということ、さらに、ですます体は女性が書いたものだとする傾向があることが分かった。 次年度は、さらに、調査を進め、新聞投書を利用し、ジェンダーがいかに内面化されてきたのか気づく作業を行なっていく予定である。
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