本研究では次の点に留意しながら研究を遂行した。 1.現地調査と文献調査を踏まえた先行研究の補完 2.バルカン-トルコ語(ラズグラット方言が中心)の口語録音資料に基づくテクストデータベースの作成 3.バルカン-トルコ語とガガウズ語の統語法における相互影響についての考察 4.研究成果の迅速な公開と社会還元 本研究の独創性は記述的な貢献と理論的な貢献の二点に大きく分けることができる。 記述的な点からは変容しつつある統語法を記述することにより文法理論や言語接触による相互影響を考える上での基礎資料を提供した。このような資料は今後の研究において必要不可欠なものである。理論的な点からは語順を支配する原理がどのように言語接触を通して変容していくかという問題を明らかにした。一例を挙げると、現代トルコ語はSOVの語順をとるといわれるが実際には口語においてSVOも頻繁に認めることができる。バルカン-トルコ語ではさらに自由な語順を許し、ガガウズ語ではトルコ語では認められないような、さらに自由な語順も認められる。一般的にガガウズ語の語順についてはスラブ諸語の影響が指摘されているが、この見方ではブルガリア語と常時接触してきたバルカン-トルコ語がガガウズ語ほど自由語順を許さない点を説明することができない。この問題の解明のためにバルカン半島で使用されているバルカン-トルコ語を含めたブルガリアのガガウズ語やモルドバのガガウズ語を検討し総合的な観点からの考察をおこなった。
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