研究概要 |
日本語の類型論的特徴の中でも,語順が自由であること,格表示マーカーを持つこと,複合述語を形成することが,文の認知処理過程にどのような影響を与えているかに関する理論的・実験的研究を進めた.まず袋小路文の認知処理に格助詞の種類が影響を与えるか否かに注目し.再分析を必要とする名詞句がガ格で表示されている文,ニ格で表示されている文のそれぞれについて,moving windowsを用いて語彙判断及ぴ文節ごとの読文潜時測定の実験を実施した.実験結果から再分析の有無は読文潜時に影響を及ぼすが,格助詞の相違は影響を及ぼさないことが示唆されたが,述語の意味関係を考慮する必要も明らかになったため次の実験を計画中である.続いて語順変更と文の認知処理の困難さの相関に関して,moving windowsを用いて,語彙判断及び文節ごとの読文潜時を測定する実験を実施し,語順変更は説文潜時には影響を及ぼさないが,語彙判断における正答率には有意差が見られるという結果を得た.関連する理論的研究として,ミニマリスト・プログラムの観点から日本語複合動詞と中国語複合動詞を比較し,両者にこれまで指摘されなかった共通点があることを第10回国際中国語学会(University of California, Irvine)で発表した.動詞と時制辞の結合に関しても研究を進め,Koizumi(1995,2000)の提案した等位接続構造における動詞繰り上げ分析の問題点を指摘すると共に,その改善策を関西言語学会第26会大会(龍谷大学)において発表した.研究課題の実践を通して得られた理論言語学者と認知心理学者の共同研究の可能性と問題点について,第123会日本言語学会(九州大学)で開催されたシンポジウム「こころの科学としての言語研究-言語学と心理学の対話-」において発表した.
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