研究課題
データ構築として、同時通訳記録の文字化作業を行った。資料としては、2000年の米国大統領選挙における大統領候補討論会の第1回と第2回を対象とした。主としてNHK-BSで放映されたものを使用した。いずれも音声は英語原発言とその日本語同時通訳をステレオ録音し、それを原発書・通訳のシンクロナイズされた並行記述の形で文字化した。さらに、同時通訳資料はデジタル化し、DigiOn Sound Lightというソフトを使って、波形として視覚化した。0.01秒単位の目盛りで訳出のタイミングを測れるようにしている。名詞グループ、述語グループなどの訳出時間を測定した結果、名詞の訳出時間が平均1.6秒であるのに対し、動詞の平均訳出時間が3.9秒となり、品詞によって大きな差があることが明らかになった。このような特徴をもつ原発言と訳出の時間的ずれの観察結果を踏まえて、同時通訳作業の特質を考察した。訳出の遅れを考察するに当たっては、時間的な距離を測るだけではなく、ある表現が原発言中に生起してから訳出中に対応表現が生起するまでの間に、どれだけの他の表現が入り込むか(情報密度的距離)、さらに、同じ量の情報密度であっても、通訳者の処理負担度が通訳者の概念化の程度に応じて変わることに注目した「負担相対化距離」の点からも考察した。その結果、通訳者の概念化が同時通訳のプロセスにおいて重要な役割を果たしているごとが明らかになった。本研究により明らかになった同時通訳のプロセスの特質は、同時通訳という特殊な言語活動の理解を促進するだけではなく、人間の言語理解一般のプロセスを明らかにする上で重要な示唆を与えると考えられる。
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