今年度は昨年度に引き続き、英雄叙事詩オロンホのテキストの分析を行った。昨年度まででデータ構築についての基礎作業を終えているので、今年度は特にオロンホ資料の内容や形式について検討した。オロンホは内容的には英雄叙事詩であり、人間界を脅かす悪者を成敗し、サハ(ヤクート)族の始祖となり一族繁栄の礎を築く独身の英雄の活躍を描くというモチーフがよく見られる。ヤクート語オロンホは語りの部分と節回しにのせて歌う歌唱部分から成る。歌唱部分は登場人物がそれぞれ歌う形式をとり、台詞のような役割とともにオロンホの流れ全体に「メリハリ」をつける効果がある。一方、語りについては、例えば、オロンホの冒頭にはいわゆるナレーションに相当する部分があり、空、天体、大地、草木等の自然界の有様を比楡的に用いながら、長い序詞を付け、徐々に主人公の登場場面へと導入していくという形式をとる。オロンホの学術的研究については種々の方向からの取り扱いが可能であるが、本研究課題ではいわゆる「決まった言い方」、「紋切り型の表現」について、作品を越えて事例を取り出し、言語学的分析を加え、現代ヤクート語には、先行する時代のヤクート語の要素がどのように継承されているかをまとめる段階まで研究を進めている。オロンホの入力によるデータ構築が行われたことにより、限られたフレーズのみではなく、広範囲の分析が可能となった。この2年間の研究の成果は来年度中に「資料及び研究」として、ヤクート語データ構築の諸問題点を指摘しながら公表していきたい。
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