研究概要 |
四国方言アクセントのうち、香川県方言は『類聚名義抄』の体系を引き継ぎながらも『補忘記』(室町末期)以前の京阪式アクセント体系から分岐した珍しい体系で、さらに実態調査が必要である。また、従来四国方言は無声化が目立たないとされてきたが、香川方言では母音の無声化現象がある。これらを明らかにすることが本研究の目的である。 平成12年度は、日本諸方言における先行研究から、有声子音の前の母音の無声化に関する事例報告を集めた。その結果、波照間方言などでは有声子音の前の母音の無声化の事例が見られるものの、本土方言では報告例がきわめて少ないことが確認できた。平成13年度、香川県の中でも古相の丸亀式アクセントの地域から、香川県東部の大内町、西部の丸亀市を選び、老年層の体系調査を実施した。東部の丸亀アクセントでは、2拍目の母音の広狭により、単語無中の拍内の下がり目が確認された。調査は研究協力者の協力を得て、複数の話者から精度の高い資料を収集した。その結果、地域差、個人差が大きく、アクセントの実態も微妙で、さらに詳細な調査が必要であることがわかった。音声的特徴としては、摩擦音の調音点が近畿方言のそれよりやや前よりであり、持続時間も長いことが観察された。また母音の無声化、促音化の現象が確認できた。しかし、個人差もあり、個人の中でも不安定で、規則的ではないが、有声子音の前でも無声化が見られることが明らかになった。同じ四国方言の中でも『類聚名義抄』『補忘記』の伝統的なアクセント体系を保つ高知方言では無声化の現象はみられない。さらに、本研究では四国方言の中で古い体系を持つ香川方言音声を『音声録聞見』を使って分析を行い、(1)香川方言に無声化の現象があること、(2)ki+j、 ci+j、 cu+jという環境で、Qkj, Qcjとなる音声現象がある(3)sakla(桜)のように有声子音の前で母音が脱落したりtor(鳥)・ar(有る)のように母音が脱落もしくは弱化する例がある(4)摩擦子音の持続時間が長いという香川方言の特徴を明らかにした。 平成14年度はベニス大学で開かれた全イタリア日本語教師研修会で研究成果の一部を発表した。
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