先住民の文学および先住民の文化・文学に関する文献を、特に女性、母親、母権制、母系制に関するものを中心に、MLA International BibliographyやAcademic Index等のデータベース・ソフトで検索し、文献表を作成、この文献表に基づき、未入手の資料の収集を開始した。母性や母親像一般に関する思想、理論も同時に検索し、入手を開始した。この過程で、この分野の研究がまだあまり行われていないこと、母親像の研究には、その背後にある宗教的なイメージや概念の理解が不可欠であることが判明した。入手した文献の研究を開始し、現代先住民女性作家が、母性や女性イメージについてのさまざまな現代思想の言説の影響をうけつつ、いわゆる白人中産階級の「理想的な母親像」にとらわれない、新しい母親イメージを創造しつつあること、その際、伝統的な宗教観、自然観に基づくイメージがよりどころにされていること、神格化された母親像が、しばしば西欧的なユダヤ・キリスト教社会におけるオルタナティブとして表象されていることが明らかとなった。また黒人、中国系など、他のマイノリティの女性作家、思想家にもこの傾向が共通して見られることも次第にあきらかになった。こういった観点から、現代先住民女性作家レズリー・シルコウの小説『死者の暦』における母親像および母親のイメージについての成果を、2001年1月21日、東京大学教養学部で「ジェンダー・女神信仰・オーセンティシティ」として口頭発表を行った。
|