本研究の3年間の経過は予定通り進められ、2002年12月末の段階で400字詰原稿用紙換算約1200枚を脱稿した。 その集大成として単行本(今橋映子単著『<パリ写真>の世紀』白水社、約630ページ)が、2003年6月10日に刊行された。 本書は今回の科学研究費補助金による研究テーマの集大成であり、この間雑誌等に発表した論考を含め、3部14章から構成され、全てこの研究を通じて書きおろされたものである。 本研究の何よりの成果は- 1)ドキュメンタリー写真とアートとの狭間に位置する、パリをめぐる都市写真を<パリ写真>と命名し、19世紀末から20世紀末までの変容を、世界で初めて詳細に跡付けたこと。 2)<パリ写真>がフランス文学と緊密な関係をもつだけでなく、「ことばと写真」をめぐる相関関係を理論的に考察する重要なケーススタディーの対象であることを、明らかにしたこと。 3)パリ写真の担い手のほとんどが、特に中央ヨーロッパ出身の「外国人」写真家であったことに着目し、ハンガリー、ルーマニア、リトアニア、オランダ-など、従来日本の写真界で知られていなかった国籍の写真家たちの仕事を紹介し、それが「異文化理解」の解明に直結することを示したこと。 4)これまで、「写真史」か「写真評論」のどちらかに極端に傾いていた研究手法に対して、文学をも視野に入れた文化研究を導入することによって、日本の写真研究に新たな視座を提供したこと。 5)ヨーロッパ都市写真研究に関わる詳細な書誌を整備したこと。 などが挙げられる。本書によって、この十数年におよぶ著者の<パリ神話>研究は、三部作(『異都憧憬 日本人のパリ』'93『パリ・貧困と街路の詩学』'98『<パリ写真>の世紀』'03)を成すに至ったことを、報告の結びとしたい。
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