研究概要 |
1、ルネサンスの人文主義の中で形成された詩学は、キケロ主義的な古典修辞学及び韻律論の伝統と、イタリアやフランスの俗語詩論(vernacular poetics)を発展・変容させて、「模倣理論」(imitatio)によるネオ・ラテン及び母国語の新たな表現原理を導き出した。 2、1572年、ローマ大学の修辞学担当教授となったマルク=アントワーヌ・ミュレ(Marc-Antoine Muret,1526-1585)は、それまで本国のフランスではプレイヤード派の詩学に示唆を与えてきたが、その年度の開講演説に於いてキケロ主義の模倣理論を批判することにより新キケロ主義へと端緒を開き、トレント公会議後(1563年終結)のローマ教皇庁及びイエズス会の修辞学にも影響を与えている。1579年の唯一ウェルギリウスを扱った開講演説に於いては、主にアリストテレスに基づいたミメーシスとしての模倣理論について論じており、「文学的模倣」(literary imitation)の基盤として人間の本性に基づく「自然の模倣」(imitation of nature)に関しても追求していることが窺える。 3、1560年代よりイエズス会のローマ学院に於いて検討され始めたラテン語文法・修辞学・人文学の教育方法は、1580年代に編纂作業が加速され、1599年にそのRatio studiorum決定版が出版されたが、ローマ大学でギリシア語とラテン語の平行授業を行なっていたミュレの教育法が1586年に参照されている。 4、日本では、1580年に巡察使ヴァリニャーノによって「神学校内規」(Regimento que se ha de guardar nossemynarios)が発令され、ラテン語の教育法が示されたが、模倣理論については、『こんてむつすむん地』に於いてキリストの模倣という宗教的文脈の中で伝播している。
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