研究課題/領域番号 |
12620001
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
吉田 克己 北海道大学, 大学院・法学研究科, 教授 (20013021)
|
研究分担者 |
長谷川 晃 北海道大学, 大学院・法学研究科, 教授 (90164813)
岩本 一郎 北星学園大学, 経済学部, 助教授 (30271620)
倉田 聡 北海道大学, 大学院・法学研究科, 助教授 (90261263)
|
キーワード | 自己決定権 / 自律支援 / 社会保障 / 社会連帯 / 生存権 / ニーズ / 正義 / 法秩序 |
研究概要 |
研究代表者吉田は、本年度は、1990年代における日本法の変容を全体として理論化するという作業に取り組んだ。21世紀市民社会の法的条件を探るためには、まずもって現実の変化を理論化することが必要だからである。「右肩上がりの時代の終焉に伴うシステム変容」と「バブル経済崩壊に伴う経済危機への対応」の二つのモメントが、90年代日本法の変容と規定している、というのが、暫定的な結論である。この関連で、日本法社会学会でミニシンポジウムを組織したほか、法律時報誌に論文を寄稿した。 倉田は、社会保障法分野における自律支援の問題を考察する糸口として、社会保障法の基礎理論に着目した。わが国における90年代の社会保障制度改革は、その指導理念として高齢者や障害者の自己決定の尊重を掲げた。しかし、その自己決定を実質的に担保するためには、これまで社会保障法を支えてきた「社会連帯」概念を再構築し、中間団体と個人の緊張関係を前提とする新しい連帯のかたちを提示すベきとの結論に達している。 岩本は、政治的にも理論的にも、現在大きく揺らいできている生存権理念の再検討に取り組んだ。本年度は、生存権理念の基底にある「ニーズ」の概念について、その論理的・規範的性格を分析するとともに、自由・平等・社会連帯などの政治的諸価値との関連性について考察を加えてきた。また、生存権理念を個人の自律に一元的に基礎づけるのではなく、多元的な諸価値による生存権理念の「重合的な」正当化について検討した。 長谷川は、<法のクロスオーヴァー>の概念を軸として、自立支援の法システムのための法哲学的基礎を考察した。ここで重要な問題は、一方では法の概念をめぐる新たなアプローチの探求であり、他方ではその変動の方向性を意義づける法の価値的要諦である正義観念と法秩序との関係である。前者に関しては、規範断片、規範集積、規範体系、あるいは個人関係、中間集団、全体社会といった条件から成る複層的な規範形成の機序が考察され、後者の問題に関しては、それらの規範群を対象とした一定のマトリックスを通じた解釈的な闡明による規範統合の可能性が考察された。
|