研究概要 |
理論面では,法化社会の秩序がいかなる条件で創発するか,創発する社会秩序はいかなる属性を持つかを明らかにするため,進化ゲーム論を用いて自生的秩序が創発するダイナミクスと条件を分析した.社会秩序としては,進化的安定状態,確率的安定状態等の理論を用い,社会構成員のモデルとしては,不確実性下の不完全合理的意思決定主体を採用した. 具体的には,当事者間で分け前を取り合うという一種の紛争状況で協力的な平等分配を行いあう秩序が創発する条件をさぐった.さらに,消費者契約という集団的大量取引でかつ紛争が潜在する文脈で,人々が契約を遵守しあう社会秩序を創発させる条件とダイナミクスを分析した.また,訴訟にまで到った紛争が,和解という裁判外の交渉によって解決される条件と,その際の弁護士の交渉戦略の組合せがより望ましい自生的秩序にいたる条件を探った. 実証面では,関東地区において層化抽出法による一般人への質問票調査(留置法)を実施し,400のデータを蒐集した.数種類のバージョンを用意して,さまざまな状況での人々の知識と態度とを一挙に調査し,かつ,これら操作条件間での統計学的比較を行うことができるように工夫した. 具体的には,各種の裁判外紛争解決制度についての人々の知識の有無とその程度を調べるとともに,具体的な紛争状況のシナリオを数種類読んでもらい,それらの状況に身をおいた場合に,その制度利用の現実の金銭的費用や時間的費用をどのように評価するか,適正であると思う費用や時間,支払意欲額,受忍限度期間などをどのよに評価するか,さらに,それらの紛争状況における訴訟や裁判外紛争解決制度の利用行動について,どのように評価するかを調べた. 以上により,法化社会における社会秩序,そこでの裁判外紛争解決制度の社会的機能,そして紛争解決制度が機能する条件(金銭的,時間的,制度的条件)を明らかにした.
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