研究概要 |
1 本研究の目的は、東広島市を事例に、水利・地域環境をめぐる近年の状況変化を背景にして、溜池の所有・管理・利用の権利関係や溜池の社会経済的機能にどのような変貌が見られるのか、その変貌の一端を解明することである。平成12・13年度の両年、(1)比較のため、広島県・岡山県・福岡県、農水省の耕地課・防災課などで資料収集に当たりヒアリングを行った。(2)また、東広島市所在の「七つ池」での農業者・非農業者共同の環境回復取り組み、同「田房ダム」上流域でのゴルフ場建設問題について、現地視察を行った。(3)東広島市役所農村整備課提供の「溜池台帳」(2,349件)の電算による集計分析を行った。 2 その結果次のような知見を得た。(1)東広島市は広島県中央部賀茂台地に位置し、ほとんど分水嶺地帯にあること、大きな河川の存在しない、水利は溜池に依存する地域であること、また、溜池の多い瀬戸内地域にあっても、とりわけその数の多い全国でも有数の溜池地帯であることを確認できた。また、社会経済的には、地域一帯は、学園都市開発や宅地開発、工業団地造・流通団地造成などの地域開発、テクノポリス開発、空港建設など都市化現象の著しい地域であることを確認した。(2)溜池の権利関係について得られた知見は次の通りである。(1)敷地所有権は形式的であるが、施設所有権の方は施設の支配管理を伴うことが多く、その場合には水利権主体とみられる。(2)溜池が大規模になるにつれて個人よりも団体に所有権が移転する。(3)水利施設への関わり方を反映して所有と管理、管理と利用との間にかなりの分化傾向が見られ、水利権の性格・内容に大きな変化が生じているものと見られる。(4)溜池の登記名義については、単なる「共有地」とするものが多いことのがこの地域の特徴といえる。(5)所有権の帰属主体が小規模なものほど農業用水以外に利用される傾向にある。(6)溜め池の潰廃状況について、地域開発と農地の非農地化に見合って「受益消失の放置」はかなり見られるが、制度上の「廃止」はほとんどない。(3)この地域にあっても、溜池は、利水、治水のみならず環境用水の性格を強めている事例が見られる。農業者、非農業者の共同の環境保全活動が見られるのであって、これが今後、水利権の性格、したがって水利権理論にどのような変容を与えていくのか(あるいは与えていかないのか)、きわめて注目される。 3 研究成果を集約し本文編31頁、資料編217頁の研究成果報告書として刊行した。
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