研究概要 |
ジャック・キュジャスの法研究を検討するにあたり、かれが研究対象とした法源諸資料のなかで、同時代のフランス諸国王王令・王状、諸高等法院の判決・決定と並んで各地方慣習法諸規定の検討が決定的に重要となる。この状況を見定めるため、まずはじめに本年度はかれのObservationum et Emendationum libri viginti octo『省察と修正28巻』のすべてにわたって上記の項目がいかなる主題のもとで言及されたかを分析検討しそのリストを作成した。あわせてほぼ同時代の法学者の引用状況についてもリストアップをこころみた。その結果1556年5月から1590年10月死没まで(没後刊行されたものをふくめると1595,6年まで)書きつづけたものであるから、当然のことながら時期により対象とした法源諸資料にばらつきがあり、かれの関心の推移が読みとれるとの印象をもった。これは書誌学上重要な点だと考える。 さらにキュジャスの生地であり法学研究の出発点ともなる南仏トゥールーズ地方慣習法(Consuctudines Tolosac『トゥールーズ法慣習』)に検討をくわえ、13世紀に第1部から第4部まで成文が確定した慣習法諸規定の部分的な訳出をこころみ、あわせてより古い旧法慣習との若干の比較をおこなった。そのさい、18世紀のローマ法叙述のなかでのトゥールーズ慣習へのコンメンタール(Fr.de Boutaric, Les Institutes)を参考にしている。他の封建慣習法(パリ法慣習など)との比較を計画していたが、そこまですすめることはできなかった。この作業は今後の研究計画の対象として順次予定している比較検討の引照基準をまず設定するためにおこなうものである。なお、時間的制約があったため国内文献調査研究、資料収集のほかは16世紀ルネサンス期および南フランス都市史を中心とした歴史学文献と封建慣習法コンメンタール古書(復刻版)収集にとどまった。
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