研究概要 |
16世紀人文主義法学における法源領域および問題領域の拡大ということを指標にすると、ジャック・キュジャスの法学を研究する過程でこれまでに明らかになってきたことは、非常に広範にわたる法源領域の検討をふまえた歴史的・比較法的な成果として叙述にあらわれていることである。この点で、検討の基盤となるかれの『省察と修正28巻』(Observationum et Emendationum libri viginti octo)にそくして、16世紀なかばのフランス諸国王の法令、具体的にはフランソワI、アンリII、フランソワII、シャルルIX、アンリIIIの各治世期の王令・王状の抄訳を試みた。ただその不備を補うための海外での調査を事情により実施しえなかったため、完全に追跡できたかどうか問題を残している。またひきつづき規定別にパリ、ノルマンディ、ブルターニュ、ポワトゥ、アンジュ、メーヌ、トゥーレーヌ、オルレアネなど北部法慣習のリストの作成と試訳をおこなった。 さらに同時代の法学者による『法学提要Institutiones』への注解(Alciato, Hotomanなど)と17、18世紀のローマ法叙述(Pasquier, Boutaricなど)のなかでの法素材の扱い方について検討をくわえた結果、問題領域の拡大という点で、後の法典整序における法学提要方式がフランスにおいて『法学提要』へのコンメンタールを通じてローマ法以外の法素材を扱うという伝統に培われてきたことをあらためて確認することができた。 今後は、まずこれまでにえられた成果を、キュジャスの法探究、1)封建慣習法研究、2)ローマ法「法学提要」研究、3)歴史的方法への革新という法源論と方法論の双方から3つの柱立てでまとめ、ついで比較検討の素材として各地方慣習法の関連藷規定を分析するとともに、パリを中核とする諸高等法院の判決・決定を視野に入れつつ、いまだ研究途上ではあるが可能なかぎり著作のかたちにとりまとめる計画である。
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