キュジャスの法探究をとり巻く学間環境を法資料集の整備とフランス法の構築の二面から検討した上で、かれの内在的な法探究の拡がりと深まりを考察した結果を示す。まず当時の「ローマ法大全」校訂刊行の状況を検討し、フランス法構築の試みにはローマ法「法学提要」と地方慣習法の双方からの主張があったことを確認した。キュジャスの法探究を検討するに際してかれが対象とした法源諸資料のうち、ピザンツ・神聖ローマ皇帝勅令、フランス国王王令・王状、高等法院判決・決定、地方慣習法、中世封建法の検討が重要となる。すなわちローマ法研究とともに封建法研究をキュジャスの法学に正しく位置づけることが必要である。この資料状況を明らかにするため、かれの著作『省察と修正』28巻のすべてにわたって上記項目がいかなる主題のもとで言及されたかを分析検討し、あわせてほぼ同時代の法学者の引用状況についても一覧化を試みた。さらに「ローマ法大全」校訂の過程で組み込まれた「封建法書」、キュジャスの生地で法学研究の出発点となる南仏トゥールーズ法慣習に検討を加え、あわせてより古い旧法慣習との若干の比較をなし、この限りでパリなど北部諸地方慣習法の規定別検討もおこなった。つぎに16世紀半ばのフランス諸国王の法令、各治世期の王令・王状の照合、検討を試みた。また諸高等法院における判決・決定の役割と結びつけるために16世紀半ばのとくにパリ、トゥールーズの法院判決に焦点をしぼって照合、検討を加えた。他方同時代の法学者による「法学提要」への注解と17、18世紀のローマ法叙述のなかでの法素材の扱いについても検討を加えたが、後の法典整序における法学提要方式がフランスにおいて「法学提要」への詳解を通じてローマ法以外の法素材を扱うという伝統に培われてきたことを確認した。
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