本年度は、第一に、理論的枠組みの形成を目的として、米国における契約理論、交渉理論の検討を行った。とりわけ、いわゆる関係的契約をめぐる理論とその適用による法社会学的な契約交渉過程の実証研究、ならびに企業等の組織が契約交渉に与える影響を射程に収めた組織的契約理論などを中心に、日タイ契約関係への適用可能性を念頭におきつつ検討した。 第二に、日タイ間の取引関係の通貨危機をはさんだ構造変容をマクロな観点からさぐるために、各種統計資料の検討のほか、日本においてタイ投資委員会、タイにおいてバンコク日本商工会議所などで、ヒアリングと資料収集を行った。 第三に、日タイ国際契約取引関係の基本的枠組みを知るため、タイの外国投資法、契約法、民事訴訟法などについての理解を得るため、資料を収集し、協議を行った。とりわけ、通貨危機以後、タイの経済関係法制は大きく変容しており、この動きの激しい政策に関しても、逐次、タイから資料を取り寄せ、フォローする体制を整えた。これによって、新たな経済法制と、いまだ必ずしもそれが浸透せず定着していない契約実践とのギャップと問題点も検討することができた。 第四に、タイの民事裁判所ならびに新しく設置された破産裁判所でもインタビューを実施し、この訴訟や破産事件の動きからも、通貨危機以後のタイでの企業取引の動態を把握することに努めた。 次年度以降は、在タイ日系企業を中心に、通貨危機以後、タイ企業との間でいかなる契約調整を行ったかについて本格的に調査し、本年度得られたマクロなタイ経済、契約関係の理解と結びつけつつ、契約の社会的機能につき、多元的角度から考察を進めていく予定である。
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