研究概要 |
平成12年6月に台湾司法院に対し,日本統治時代の判決原本が今なお保管されている裁判所の有無について調査依頼を行った。その結果,台中地方法院,新竹地方法院,台南地方法院に保管されているとの返事を得たので,8月にこれらの裁判所を調査した。結果的には台南地方法院には現存せず,その代りに嘉義地方法院に存在することが判明した。いずれの裁判所も調査に好意的であり,数件の祭祀公業関係判決を収集することができた。他方,現在,財団法人として姿を変えながら存続または設立された祭祀公業については,12月に台湾李氏の調査を行い,関連資料を収集した。旧来の祭祀公業がかかえている法的問題については,何件かの事件を扱っている曽習賢弁護士の助力により関連資料を収集した。以上の基礎作業を通し,祭祀公業に関する問題点の多くは,その構成員である派下の確定の困難に由来することが判明した。特に,経済発展の過程で公業地に担保設定を行う必要性が生じたり,あるいは公業地の処分が派下総会で決定された場合,派下全員の同意を得ることが極めて困難な状況は,日本統治時代も現在も変わらないことが判明した。多くの問題点と紛争をかかえながらも存続している理由としては,民国政府になってからも台湾社会における祖先祭祀の重要性が変化していないこと,あるいは民国政府による国家的生活保障の不十分性を公業による収益の分配によって補充していることが挙げられる。特に,後者は,収益源が農地を基礎とする小作料収入から賃貸住宅経営等による不動産収入へと変化してきており,台湾社会の都市化に対応する形で収益の安定が図られている点に,祭祀公業の現代的変容を認めることができる。
|