本年度の研究は、2つの側面から実施された。第1は、判決原本の整理・解読であり、主として前年度に所在を確認し、利用を許可された台湾台中地方法院所蔵の判決原本から祭祀公業関係の判決を抽出し、これを解読することに努めた。今1つの側面は、台湾における土地整理に伴い近年徐々に解体されつつある祭祀公業について、実際にこれを訪問し、祭祀公業の解体と財団法人化による新たな存続の方向性について調査を行った。調査対象は、解体の模範例とされる祭祀公業陳悦記および祭祀公業陳懐念である。両者共に公用徴収の対象となる土地を有し、政府による補償を基金として財団法人を創設し、祖先祭祀と一族共存・団結の維持を図っている。かつての土地を中心とする財産から現金等の金銭を中心とする財産へと変化しているものの、祖先祭祀と一族共存という伝統的な祭祀公業に共通する要素は何ら変化しておらず、この点に、台湾社会における伝統の維持を認めることができる。
|