祭祀公業とは、台湾に伝統的に存在する、祖先祭祀を主目的とする財産であるが、日本統治時代に西欧近代法の概念が導入された結果、様々な問題を露呈してきた。本研究は、台湾における伝統的な一族共同体による所有が、近代法の概念の下でどのように処理されたか、そして祭祀公業は現代においてどのように変化し、維持されているかの解明を通じて、台湾社会の非法的秩序構造を明らかにすることを目的とする。 本研究は、主として3つの側面より行われた。第1は、日本統治時代の判決を基に、祭祀公業に関する紛争の状況、および法的性質を解明することである。判決調査の過程で、台中、新竹、嘉義の地方裁判所に日本統治時代の判決原本が存在することを確認し、その全体像を明らかにした。第2は、日本統治時代の諸研究を基に、当時、祭祀公業の何が問題とされたか、すなわち近代法導入の際に祭祀公業のどの部分が近代法の概念と矛盾衝突したかを解明した。第3は、現代における祭祀公業の解体と発展についての研究である。中華民国期になってから、財団法人としての祭祀公業が認められるようになり、これに伴い従来からの土地を処分して財団法人の設立が進められている。しかし、これにも様々な問題があるので、幾つかの財団法人についてフィールド・ワークを行い、祭祀公業の解体と再生の状況を明らかにした。 以上の研究の結果、祭祀公業は従来の土地を中心とする財産から財団法人へとその姿を変えつつも、依然として台湾社会に存在し続けており、同族結合の機能を失っていないことが明らかとなった。
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