近世(江戸時代)日本においては、行政においても司法においても上級機関、上級権力へ、伺いその指示をあおぐということが行われていた。中央政府(幕府)の行政機関としての地方出先機関(代官所、遠国奉行等)のみならず、中央政府(幕府)の行政機関とはいえない地方政府(藩)までもが行政上の問題や法的問題の処理について、中央政府に伺うということが行なわれており、その実態、背景、意味を問うことが本研究の目的であった。今年は、前年の基礎作業をふまえて、大量の伺いと指令を収録した問答集を主たる手がかりにして、租税滞納処分問題についての地方政府(諸藩)からの伺いと、それに対する中央政府(幕府)の指令について分析し、伺・指令型の法運用の実態について明らかにした。そこでは、租税徴収という地方政府(藩)の基本的支配権に属する問題の処理について、中央政府(幕府)に伺い、その指示を仰ぐということが行われていたことが明らかにされた。その研究成果は、「立命館法学」273号に公表した。また、民事事件、刑事事件を含めた司法、行政全般に関する様々な伺いと指令の実態を分析し、近世の伺・指令型の司法と行政の特質を明らかにする作業を現在まとめつつある。そこでは、中央政府(幕府)と地方政府(藩)との関係のみならず、中央政府とその出先行政機関との関係にも視野を広げ、日本の統治機構全体の中での「伺・指令型」司法・行政の特徴と歴史的意味を明らかにする予定である。研究成果は、「立命館法学」または他の学術雑誌に掲載する予定である。
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