ホームレスの人々の「自立支援」及び権利保障に関する比較憲法学的研究の第1段階として、我が国における「ホームレス問題」の実態とそれへの行政的、法的対応の現状について概観し、ホームレスの人々の権利保障研究のための課題設定を行った。 我が国には、世界的にもまれな普遍的な個人の法的権利としての生存権規定を有する日本国憲法と、その理念を具体化し、無差別平等を原理とする生活保護法がある。にもかかわらず、住居もないほど貧困したホームレスの人々が、保護実施機関によって系統的に生活保護から排除され、しかもそれがあたかも当然であるかのように見なされてきた。 その排除の実態を典型的に示す一例として地方都市静岡市の福祉事務所における「ホームレスの人々」に対する生活保護行政のあり方をとりあげ、臨床的研究方法を採用しつつ分析検討した。 また、こうした地方都市における福祉行政と、いわゆる「寄せ場」をかかえ、日雇労働者対策の蓄積を有し、「ホームレス対策」において先行している大都市、東京、大阪、横浜、名古屋などにおける福祉行政との比較検討を行った。とりわけ、名古屋の笹島地域で野宿していた林さんの訴訟を素材として、「ホームレスの人々」に対する公的扶助行政の現状と問題点を明らかにした。 これらの研究から、我が国の福祉行政による「ホームレスの人々」に対する「排除」の現状が明らかにされた。 日本国憲法、生活保護法が生存権を無差別平等に保障しているにもかかわらず、ホームレスの人々に対する「排除」を正当化してきたものは、近代主義的な人権理念の核にある自己決定=自己責任理念と保護=服従構造である。ホームレスの人々の権利保障を正当化する為には、この排除を規定してきた近代主義的人権理念の限界を超える新たな権利論の構築が必要である。ホームレスの人々の権利保障の論理とシステムを構築してきた欧米の経験を参照し、この課題を追求していきたい。
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