本年度は、ホームレスの人々の人権に関する比較憲法学的研究の最終年度であったが、2002年8月に日本で最初のホームレス法「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」(10年の時限立法)が制定され、特に本法制定の背景とその意義に関わる研究を軸に研究を行った。また、本法は欧米、特に米国のホームレス法制を参考にして作られたものであり、米国におけるホームレス法制との比較法的研究に引き続き取り組んだ。 ホームレス自立支援法は、ホームレスの人々の人権保障、とりわけ安定した住居と雇用の場の確保を目的としたものである。ただし、その具体的施策については国の基本方針、地方公共団体の実施計画に委ねられている。また、民間の支援団体等による事業が大きな位置を占めており、国による財政等の援助が定められている。他方、公共施設の適正化に関する規定など問題をはらむ規定もある。これは住居の提供など自立支援策なしに野宿場所からホームレスの人々を排除することを禁止したものだが、施設管理者による排除を正当化するものと誤解されている向きもある。本法が排除と支援(収容)という形で展開すれば、まさに米国型となってしまうであろう。 米国においては連邦法たるマッキニー・ホームレス法がホームレスの人々の自立支援を制度化している一方、地方政府が反ホームレス法をそれぞれ制定し、ホームレス排除と半強制的な収容策を進めている。特に、ホームレス行為の犯罪化と刑務所への収容政策はホームレスの人々の福祉策からの排除ももたらしており、深刻な問題となっている。 日本の新たなホームレス法制を、米国のような排除と収容の手段としてではなく、ホームレスの人々の人権保障という目的に相応しいものとしていくための条件を探ることが今後の研究課題である。
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