ホームレスの人々の「自立支援」及び権利保障のあり方を、比較憲法学的方法を採用して検討することが本研究の課題であった。 そのため、まず日本におけるホームレス問題の状況の概観を行った。ホームレス問題の特質を一言で言い表せば「社会的排除」ととらえることができよう。そこで、公共施設等において野宿する人々への文字通りの排除、社会保障制度とりわけ生活保護からの排除のあり方を検討した。生活保護からの排除については、林訴訟を素材とした争訟事例の研究の他、臨床法学的手法を活用し、ホームレス当事者への直接的関わりを通した研究を行った。それにより争訟例を通しては把握しきれないホームレスの人々への生活保護適用の実態を明らかにすることができた。これは本研究の特長の一つである。 次に、欧米におけるホームレス対策との概括的な対比により、ホームレスの人々の人権保障に関する課題設定を行った。アメリカ合衆国(ニューヨーク、ワシントンDC)における研究調査、国内におけるホームレス法制定に向けての動向の調査を行い、日本におけるホームレスの人々の権利保障の方向性を研究した。米国においては、ホームレスの人々への援助の展開とともにホームレス行為を規制する法令等の制定が相次ぎ「ホームレスの犯罪化」といわれる事態が現れたことが特徴の一つである。これは、ホームレス自立支援法制定後の日本の状況に少なからず類似する。 その後、2002年8月7日にホームレスの自立支援等に関する特別措置法が公布・施行されたが、その制定に至る経緯と制定過程を中心に、ホームレスの人々の権利保障と自立支援策の具体化過程を検討した。日本におけるホームレス自立支援法は国および地方公共団体の責務を強調したものの国の政策自体は行政の責任を回避する傾向にあり、残念ながら実効的な自立支援策の展開は期待できない状況にある。
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