本研究は、次のような思考順によって展開される。 I.司法制度改革審議会報告書が指摘したように、「司法制度改革」の最大の眼目は、「法の支配」を日本社会に根付かせることにある。ところが、論者によって「法の支配」の意味するところは、多様である。 II.正確かつ厳密な意味での「法の支配」とは、(1)人の主観的属性を捨象する、一般的・普遍的ルールを議会が定立し、(2)行政機関がそれを誠実に執行し、(3)それらについて疑義があれば、裁判所が公正な観点に立って裁定すること、を指す。 III.この意味での「法の支配」とは、別の観点に立っていえば、(a)個別法の定立を許さないこと、(b)行政機関に恣意的な裁量を許さないこと、なかでも、事前の行政規制に警戒的であるべきこと、(c)行政機関優位の法理論体系に警戒的であるべきこと等を意味している。 IV.上記(a)の論点が、「法治主義/法の支配」の違いである。 V.上記(b)(c)の論点が、「事前規制/事後規制」の司法審査基準につながっている。 VI. さらに、これらのすべての論点は、現行の行政事件訴訟法再検討を迫っている。 以上のような考察対象の背景には、「国家/市民社会」または「公法/私法」の二元論をどう評価するか、という根元的な課題が流れている。この考察にあたっては、自由経済市場における人間の自由な交易活動が人類に何をもたらしたか、という歴史的・哲学的な解をも求めなければならない。
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