本研究は、これまで進めてきた日中両国の国家賠償制度に関する比較研究を基盤として、英米法系と大陸法系を代表する諸外国及び東アジアを中心とするアジア諸国の国家賠償制度との比較研究も加え、研究の範囲を広めていきたいと考えている。とくに東西の文化と伝統を背景に形成された東洋法と西洋法との比較研究という角度から、欧米諸国と日本、中国を含むアジア諸国の国家賠償制度との異同点を検討するとともに、成文法の伝統を持つ大陸法系諸国の国家賠償制度がこれらのアジア諸国に与えた影響についても考察しようと考えている。具体的には、上述した諸外国の司法関係における国家賠償制度の許容性について、比較法的な視点から、諸国の司法賠償責任に概ね共通する司法権行使の独立という特殊性に対する考慮と、それぞれ異なる許容範囲と成立要件の特徴、たとえば刑法上処罰されることを原則とするドイツ法、裁判の拒絶と職務行為上の重過失を条件とするフランス法、司法免責権を認めているイギリス法とイギリス法の伝統を継受して主権免責の原則を採用するアメリカ法、民事裁判における国家賠償責任を除外して刑事裁判に限定して違法原則を適用する中国法、及び故意と過失を要件とする日本法と韓国法などにおける司法賠償制度の特色を概観しながら、民事及び刑事の裁判とその執行並びにこれに関連する警察、検察の作用を包含する司法権の作用として行われる公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行うについて、違法に他人に損害を加えた損害賠償責任に関する諸問題とその傾向を中心として研究を進めている。
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