平成14年度は、アドルフ・ガッサーの地方自治論の検討を中心に研究を進めた。とくにガッサーの著作である『ヨーロッパの救済としての市町村の自由』、彼の生誕80周年記念論文集に収録されたH.カルクブレンナー、H.ブルークマンス、F.-L.クネーマイヤーらの論文等によって、ガッサーの地方自治論の体系と意義を検討した。ガッサーは、「市町村の自由」が民主主義を支える不可欠の要因であり、「市町村の自由」ないし地方自治が補完性原理の適用の一形態であるとする認識をもって、ヨーロッパ諸国の多様な地方自治の形態とその歴史を考察した。地方分権的行政システムがなければ民主主義(憲法)は真に主権者人民のものとはならない、とする主張は、世界地方自治憲章草案前文の立脚点とも相通じるものであり、とくに注目される。彼は、それ以降の民主制国家における地方自治の位置づけに関する議論に大きな刺激を与えた。 補完性原理は、ヨーロッパ地方自治憲章や世界地方自治宣言で地方自治の国際的スタンダードとして位置づけられた。平成14年度は、補完性原理のドイツにおける発展を整理し、この原理の憲法規範性を肯定する立場と否定する立場の論拠を明らかにした。また、地方自治の国際的保障に連なる思想や原理、制度を検討するための素材として、他の研究者と共同で歴史的資料を整理・編集し、解説をつけて公刊した。
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