研究概要 |
本テーマについて当初設定した検討の柱は、(1)いわゆる連邦補償法を中心としたドイツの補償制度、(2)わが国の一連の「戦後補償裁判」をめぐる動向、(3)ドイツにおける財産権保障理論、なかんずく連邦憲法裁判所の判例理論の動向、(4)日本国憲法29条の財産権保障条項をめぐる判例および学説の動向、の4つであった。 このうち本年度は、とくに、(2)のわが国の一連の「戦後補償裁判」、なかんずく、関釜従軍慰安婦訴訟山口地裁下関支部判決(1998年4月27日)と広島高裁判決(2001年3月29日)、劉連仁訴訟東京地裁判決(2001年7月12日)、鹿島花岡事件の和解(2000年11月29日)などの判決や和解文書、さらには、新たな補償立法の動向として、民主党・社民党・共産党の共同提案として参議院に提出された「戦時性的強制被害問題の解決の促進にかんする法律」(2001年3月21日)、などをめぐる補償理論上および憲法訴訟上の理論的問題につき一定の検討を加えることができた。 また、(3)のドイツにおける財産権保障理論にかかわっては、法律による公用収用とこれに対する補償問題についきドイツの判例理論上リーディング・ケースとなったハンブルク堤防法判決(BVerfGE 24,367)、経済秩序に関する立法者の内容形成の自由が問題となった共同決定判決(BVerfGE 50,290)、「憲法によって保障された所有権の概念は、憲法それ自体から導き出されなければならない」とする注目すべき判決を下した砂利採取決定(BVerfGE 58,300)などの判例理論と、これらの判決につき指導的役割を果たしたWerner Boehmerの財産権理論につき、その特徴の一端を明らかにすることができた。
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