研究概要 |
本研究は,国際連合の決定とくに安全保障理事会の憲章第7章の下の決定が国連憲章に適合するものか否か,その合法性(合憲章性)の審査を国際司法裁判所が行いうるかどうかを法的に検討するものである。 この司法審査の可否の問題は,現在,同裁判所に係属中のロッカービー航空機事件で大きな争点となっている。裁判所は,これは本件の本案の問題であるとして,いまだこの点に関する態度を明確にしていないが,調査の結果,裁判官の間にかなり深い意見の対立があることが明かとなった.つまり,裁判所が国連の他の機関の決定の合法性を審査することは国連憲章上否定されているとする立場と,これを肯定的にとらえる立場である.否定論の根拠は,憲章上これを認める明示規定がないことに加えて,安保理には憲章上平和の維持に関する強力な権限が与えられていること,憲章の採択時(1945年)にすでに司法審査権の提案が否決されていること,また裁判所の従来の判例もこれを認めてきていないことなどであり,他方,肯定論は,憲章上にその禁止規定がないこと,解釈上これを認めうる余地が十分にあること,また実際上そのような審査を行った事例があることなどを根拠としている。学説上でも。この点について深い対立がみられる。 本年度の研究では,この問題についての学説や判例の調査はほぼ終ったので,残る仕事は,この問題が国際法の発展に及ぼす影響を明らかにすることである。もし司法審査が可能であるときは,国際司法裁判所が国連活動を司法的にコントロールできるということであるから,国際社会における法の支配の発展に大きな意味をもつことになる。
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