この研究は、グローバルな金融取引を安全かつ効率的に行うためには、どのような法的インフラをどのように整備すべきかについて、制度設計のための基本原理を明らかにすることを目的としている。 平成12年度は、ヨーロッパの通貨統合に対しても、伝統的な理論で一応の対応ができるが、他方、明確で予見可能な国際私法規則を定立することのメリットが大きいことを明らかにした。 平成13年度は、次の2点が重要である。第1に、EUでは、金融機関の本源地法(law of originの原則が採用されてきたが、最近のEU金融市場の統一の動きによって、本国法原則の適用範囲の拡張と同時に、各国の規制法の調和がはかられている。第2に、金融取引のグローバル化に対応するためには、市場統合に関する方法論だけでは充分ではなく、制度に対する消費者の信頼を確保するための消費者保護法の整備がキーとなる。 平成14年度は、規制法的対応と私法的対応についてつぎの点を明らかにした。第1に、本源地法の原則は、承認原則とセットになっている。第2に、国際的な証券化取引には現行法例12条の債務者住所地法主義ではなく、債権者住所地法主義が優れている。第3に、現行国際民事訴訟法・国際私法理論は在日外国人の資産問題を念頭においているので、日本人の在外資産の問題には充分対応できない。 平成15年度は、つぎの結論を得た。第1に、社債権者集会のような私的自治でカバーできるような法律関係は伝統的な事実からのアプローチが適切であるが、公共政策の領域においては絶対的強行法規の国際的適用を決定する法律からのアプローチが相当である。第2に、社債準拠法が日本法である場合には、事実からのアプローチが法律からのアプローチに優先する。第3に、従来の説明方法とは異なり、法人格否認の法理が法廷地の絶対的強行法規として、法律からのアプローチにしたがって適用されるべき場合を認めるべきである。
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