大韓民国政府は日本による韓国併合の法的効力を認めず、大韓帝国と大韓民国との間では法的断絶のない継続性があるという見解を持っている。韓国政府のこのような見解は、日韓の国交正常化の交渉過程において、また1910年以前に大韓帝国が締結した条約の拘束力の継続を確認した1986年の韓国政府措置を通じて、端的にあらわれたことがある。しかし、その場合問題になることは、35年間に亘って韓国民を実効的に統治したのは日本政府であるという事実である。 この問題と関連して韓国政府は、中国で成立した大韓民国臨時政府を韓国の正統政府として認め、自らがその臨時政府を継承しているという。しかし、国家の要素としての政府という国際法的観点からみると、その成立の経緯、統治の実体、国際社会からの承認及び外交関係の実績等の点において、大韓民国臨時政府は大韓帝国と大韓民国との国家的同一性を媒介する法的実体として認め難いところが多いと思われる。このことの論理的帰結は、大韓帝国は国家として消滅し、旧大韓帝国の領土は日本の領土になり、その国民は日本国民になったこと、そして大韓民国は日本から独立した新生国ということになるだろう。 しかし、近年のバルト3国の例でみるように、50年以上も他国の一部として併合されたと思われてきた国家も、国際社会によっていわゆる「復活した国家」として認められる場合もある。大韓帝国と大韓民国の国家的同一性を認めることが、国際社会の法的安定性を著しく害することなく、韓国の民族的・国民的名誉と自尊心を回復させ、外国による支配がもたらした不当な結果を是正する道と認められる場合には、韓国にも「復活した国家」としての地位が与えられる余地はあると思われる。
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