平成12年度には、日本の福祉政策のパラダイム転換(1995年7月の社会保障制度審議会勧告「社会保障体制の再構築』)を経た現在、「市場のグローバル化」における女性の無償労働問題を検討する場合には、(1)地球規模の資本主義システムのなかでの位置づけ、および(2)無償労働を有償化(商品化)することに伴う問題群の把握、が必要であることを明らかにした。13年度は、主に上記(1)に取り組み、日本社会において、女性の家族内無償労働が推奨されてきた原因は、資本主義的家父長制のみに求められるのではなく、取引費用と機会費用を削減する社会保障制度網が構築されてきたことにもあった点を指摘した。14年度は、主に上記(2)に関して、労働力再生産過程における世代間・世代内の公平性(単なる資源の平等な配分状態ではなく、たとえ不平等な配分であったとしてもそれを正当なものとして受け入れること)をいかに確立できるかについて、「育児期」と「高齢期」という基本的な社会リスク(自力で生計を立てられなくなる状態)のうち、前者に重点を置いて検討した。その途上で、日本の主権機能変容の一形態としての「民事不介入原則の見直し」を児童虐待防止法を例に検討し、公益としての「世代継承」を家族のgenerativity(世代継承能力)との関連で考察した。これらの成果に基づき最終年度では、育児や介護を、Winicottのいう人間の発達過程における最初期(乳幼児)と最後期(寝たきり老人)の「ある」(=依存する/ケアされる)存在に対する、中間期の「する」(=依存される/ケアする)存在による、両者の関係性のうえに成り立つ労働とみなすべきこと等に着目し、Minowの「関係性の権利」論やCornellの「イマジナリーな領域への権利」論をも踏まえて、自身との関係性=セルフ・エスティームを人権の基礎に置く、労働者および子どもの権利に関する論考をまとめ、英訳を開始し、平成17年度中の博士論文完成と出版を目指す。
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