民法学における法理論の構造と展開をいわゆるパラダイム転換論と関連づけながら理解しようと試みる本研究は、本年度、当初の予定通り、次の2つの実証的な方向から検討を進め、成果を得た。 その第1は、民法典の理論的支柱とも言える「私的自治の原則」あるいは「意思自治の原則」、そして、「契約自由の原則」について、その異同にも着目しながら、理論的検討を行い、さらにその現代的展開であり、パラダイム転換とも位置づけうる消費者法について、比較法的動向をも踏まえつつ、立ち入った検討を行うことである。そして、前者の課題については、池田清治「私的自治の原則」法学セミナー556号14-17頁において検討を行い、特に「私的自治の原則」と「意思自治の原則」との異同について若干の指摘を行った。次に後者の課題については、池田清治「消費者契約法とドイツ法」ジュリスト1200号122-129頁において検討を加えた。これは本年(2002年)1月1日に施行されたドイツの新債務法についての、かなり早い段階での包括的な紹介でもあるが、「私的自治の原則」との関連では、消費者契約にあっては「契約の拘束力」の原則(つまり、「自由な意思で締結した契約には拘束される」との原則)が-契約撤回権の伸長により-揺らぎはじめていること(=現代におけるパラダイム転換)に着目したものである。 第2に、昨年度から引き続き、債権譲渡、特に譲渡禁止特約について検討を行った。すなわち、池田清治「ハイン・ケッツ著(潮見・中田・松岡訳)ヨーロッパ契約法I」民商法雑誌124巻6号908-918頁において、同特約の比較法的動向について考察を加え、日本の学界の一般的認識に対して再考を促した。今後は、この比較法的動向の背景を探ったうえ、それとパラダイム転換論との関連について検討を加える予定である。
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