本研究の目的は、法律学上の「理論」とはどのような構造を持ち、そして、どのように発展していくものであるのか、という問題を実証的に検討することであった。そして、そのさい、分析道具としては、科学哲学上の概念である「パラダイム転換」論を用い、また分析対象としては、法律学上の古典的問題を選び、具体的な検討を加えることとした。その結果、以下のような研究成果を得た。 まず法理論の構造と発展に関する一般的論としては、第1に、理論の発展過程とは、ある理論が他の理論を説得する過程ではなく、他の理論の支持者が死に絶える過程であるとの知見を得た。これはクーンのいわゆるパラダイム転換論が法律学においても妥当性を持ちうることを意味している。また第2に、法律学上の理論が一般言明のみならず、実例や模範例を含んでいることは広く知られている事実であるが、科学における理論についても同様の理解があることが判明し(シュテークミュラーの理解)、理論の構造が学際的に共通性を有するものであることが明らかとなった。 次に実証研究の観点から、幾つかの具体的な問題についても検討を加えた。なかでも最も詳しく検討したのは「債権譲渡と譲渡禁止特約」という間題であり、これは「債権譲渡と差押え」という問題から派生したものである。そして、譲渡禁止特約の効力に関するこれまでの議論の展開過程を実証的に検討し、古典的理解の背景とその後の変化の動因を探るとともに、相殺という関連問題にも検討を加え、解釈試論おも提示した。
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