研究概要 |
本研究のテーマは、高齢化社会を前提とした遺産承継のための法技術の検討であり、主にドイツ法上の法制度を中心とする比較法的研究である。以上の視角から、一方でドイツ法の法制度を総合的に研究し、他方でわが国の法制度・実務慣行に対しても一定の批判的提言を行う予定であった。 その結果、ドイツ法に関しては、幾つかの相続法上の法制度、相続契約、共同遺言、先位・後位相続などに関しては,、制度相互間の有機的な関連を明らかにしたと考える。しかし、その重点は、「先取りした相続」という公証実務が発展させた予防法学上の法制度にある。こういった「先取りした相続」のモデルは、伝統的には農家相続の分野に広く見て取ることができるが、それは主に農業保護という観点から、かつ単子相続を前提として限られた分野で実施されてきたに止まる。しかも、従来の研究は、農業保護以外の私法上の法技術的な検討が十分ではなかったといえる。そこで、本研究では、これを一般的な不動産の贈与、小規模会社の承継などに広げて検討した。但し、あくまで一番単純化したモデルを探るという意味から、最も一般的かつ単純な不動産の贈与の分野に、研究の焦点を当てた。 他方で、わが国の事情に関していえば、以上のような生前行為と死因処分を組み合わせた遺産承継のための実務というのは、各所で聞き取り調査を行ったが、見て取ることはできなかった。法律的な観点からは、主に遺言による処置、遺言信託が推奨されているに止まる。生前措置がされる場合にも、相続税のための対策に集中しており、法律家の仕事というよりも税理士の職域に止まっているという印象を受けた。
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