米国連邦倒産における公示されない担保権等の取り扱いの歴史的展開を研究する過程で、現在米国では無担保信用供与は専ら財務諸表に依拠して行なわれ、登記精度やU.C.Cの登録制度は無担保債権者保護との関係では全く機能していないことが明らかとなった。また、たんに財務状況を開示するだけでは不十分で、それを基礎に債務者の収益がどうなるかを予測する技術が重要であることも明らかになった。とりわけ、再建型倒産手続きでは、債務者が提示する再建計画が適切か否かは、十分に開示された情報を基礎に様々な債権者が議論しつつそのような計画に基づく収益をある程度正確に予測できなければ、判断できない。こうした判断ができなければ、再建手続(民事再生法、会社更生法)は収益力のない企業を延命させ不良債権をさらに増やすだけの手続になってしまう。本年度は以上までが明らかとなったので、この点についての研究を発展させたい。 次に公示されない担保権の一つである相殺権の破産法上の取り扱い(どの範囲で尊重し、どの範囲で排斥するかという問題)につき、我国の破産法の母法である1877年のドイツ破産法、それを改正してできた1994年のドイツ倒産法の規定の形成と展開を研究し、我国の破産法改正を提案する論文を執筆した(現在初稿の校正を終了)。また、このテーマで本年5月の民事訴訟法学会のシンポジウムで報告する予定である。 さらに、同様に公示されない担保権の一つである優先権の排除の原則の形成と展開につき、ドイツ(1855年のプロイセン破産法、ドイツ破産法、ドイツ倒産法)、及び米国(1938年のチャンドラー法、1978年の連邦倒産法)での歴史的展開につき、基礎的な研究を完了した。この成果は、平成14年度中に、「破産法における形式的平等と実質的平等」(仮題)という論文にまとめる予定である。
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