本研究の目的は、債務者の財産状態が適切に開示されていなければ(企業の情報開示が十分でないなら)、倒産処理手続は、十分にその目的を達成することはできないことを、明らかにすることである。 研究の発端は、ドイツ倒産法の機能不全である。すなわち、1877年のドイツ破産法は、制定当初は効果的に機能していた。しかし、その後、破産手続により確保される債務者財産が減少を続け、まず無担保債権に対する配当率の低下が問題となり、次に財団不足に基づく破産申立の棄却や破産手続の廃止の頻発が問題とされるに至った。この点では和議手続も同様であった。 その原因は、公示されない別除権が創設され、債務者の財産状態が外部に対してきわめて不明確となったため、支払不能発生時の債務者財産を拘束し破産債権者に分配するという無担保債権者を保護するための制度が機能しなくなったことである。 そこで、公示されない担保権につき、五四四条(a)と五四七条(e)をもつアメリカ合衆国連邦倒産法を研究したが、その結果は以下のとおりである。公示されない(後れて公示された)担保権を無効にする制度は、担保権を公示する登記・登録が無担保信用を供与する者に対して有用な情報を提供することを前提としている。ところが、アメリカ合衆国では、無担保信用は財務諸表制度に依拠して供与されている。登記・登録制度の無担保債権者保護機能は、無担保信用が債務者が占有する個々の財産に着目して供与された時代にはそれらはきわめて重要な役割を果たしたが、現代ではそうではない。 そこで、以下の如き結論を得ることができた。我が国の財務諸表が債務者の財産状態を正確に反映させること、そのような情報に基づいて無担保信用が供与される実務を確立することが、倒産処理手続が効果的に機能するための、絶対的に必要な条件である。ただし、限定的ではあるが、担保権の公示が決定的な重要性をもつこともあり、そのような場合対抗要件否認が重要な役割を果たす。
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