1.本年度は、まず、法のハーモナイゼイションの基礎理論研究の一環として、法の継受・移植の限界を探るため、この分野で画期的業績をあげているマティアス・ライマンの研究を中心に、現代アメリカ比較法学の新たな動向を調査した。その結果、第1に、わが国の比較法学にも、(1)ヨーロッパ偏重である。(2)法典・判例法中心である。(3)比較法学の目標がヨーロッパ型で負担過重であるといった批判が妥当すること、第2に、比較法教育の目標を再度問い直す必要があること。第3に、法の継受に焦点を合わせた総合的な比較私法史が、わが国においても構想されてよいこと、第4に、ライマンによる比較法史の提言は、比較法学における学際的研究の重要性を再確認させること(わが国においても、比較法学が他の社会科学分野と法学との対話を促す触媒としての役割を積極的に果たしてゆくべきである)んどの知見が得られた。 2.手続法のハーモナイゼイションに貢献する具体的テーマとしては、国際倒産法における法の牴触問題をとりあげ、主にドイツ法・EU法を対象に、比較民事手続法の手法を用いて、国際倒産共通法の現況を明らかにした。倒産法的事実関係ともっと密接に関連する倒産手続開始国法を原則として適用することが、手続と実体の分離を防いで、裁判の国際的調和を実現させることをまず指摘し、次いで、否認権・相殺権・担保権・双務契約をとりあげて、例外的に取引行為準拠法等が介入する場面を検討した。外国倒産処理手続の承認援助に関する法律でも、倒産国際私法に関する規定が設けられなかったので、比較法をふまえた分析がとくに必要とされる領域であり、詳細な倒産国際私法規定を有するEU倒産規則が、今後の立法上の指針となる。
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