1.当該期間は、法のハーモナイゼイションの基礎理論研究の一環として、法の継受・移植の限界を探るため、この分野で画期的業績をあげているM.ライマンの研究を中心に、現代アメリカ比較法学の新たな動向を調査した。 2.第2に、手続法のハーモナイゼイションを重要テーマの1つとする比較民事手続法の基礎理論の現状を総合的に検討し、(1)比較民事訴訟法史、(2)民事訴訟法の移植可能性、(3)比較訴訟法国際プロジェクトの現在、(4)ヨーロッパ民事訴訟法の構想、(5)比較民事司法制度論について論じたうえで、比較民事訴訟法研究の効用を解明した。すなわち、訴訟実務の合理化・科学化、効率的でフェアな制度の移植の促進、訴訟制度のヒューマナイゼンション、法族論の柔軟化、訴訟法の国際的な近接化の促進、民事司法改革の基礎となる一般理念ないし訴訟哲学の提供といったさまざまな効用が存在する。 3.第3に、具体的な手続法のハーモナイゼイションに貢献する立法論・解釈論上の研究として、国際倒産法の分野における法の牴触問題をとりあげ、主にドイツ法・EU法を素材として比較民事手続法的手法を用いて、国際倒産共通法形成の現状を明らかにした。倒産法的事実関係と最も密接に関連する倒産手続開始国法を原則として適用することが、手続と実体の分離を防いで、裁判の国際的調和を実現させることをまず指摘して、次いで否認権等をとりあげて、例外的に取引行為準拠法等が介入する場面も検討した。外国倒産処理手続の承認援助に関する法律でも、倒産国際私法に関する規定が設けられなかったので、比較法をふまえた分析が特に必要とされる領域であり、詳細な倒産国際私法規定を有するEU倒産規則が今後の立法上の指針となる。本研究では、このEU倒産規則を全訳し、前掲承認援助法との異同を詳細に比較検討した。
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