民事紛争処理の過程で、専門的知見の利用が問題になる場合は、訴訟と訴訟以外の紛争処理(ADR)とに分けられる。今年度の研究では、日本国内外の文献および調査を基礎にして、以下のような検討成果を得ることができた。 1 訴訟における専門的知見の利用 ア 証拠および争点の整理の場面 従来、民事訴訟における専門的知見の利用は、主として鑑定人を通して行われてきたが、実際には、これは争点確定後の証拠調べの段階に限られており、訴訟のもっと早期の段階すなわち、提訴の準備や争点整理段階での専門的知見の利用が求められていた。このうち、提訴の準備段階については、医師・建築士などの専門家集団がその職業上の義務として、素人が容易にアドバイスを得られる窓口を設けて、積極的に対応することが紛争予防の面からも要請される。しかし、わが国における対応はまだ不十分である。 これに対して、争点整理段階における専門家の利用については、裁判所による鑑定人の早期の選任、専門家調停の利用など、様々な工夫の余地があり、その一部は現実にも実施されつつある。 イ 鑑定の場面 鑑定については、良質な鑑定意見を得るための鑑定手続の改善が急務である。とくに、鑑定人の確保、鑑定意見作成手続のマニュアル化(鑑定事項の決定、鑑定意見の書き方など)、鑑定人尋問のあり方などが問題になる。これらの点については、諸外国でのあり方などを参考にして、状況が改善されつつある。 2 訴訟以外の紛争処理における専門的知見の利用 いわゆるADRは、専門家を利用しやすい手続であるが、選任手続の透明化による中立性確保が必要となる。
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