民事紛争処理の過程で、専門的知見の利用が問題になる場合は、訴訟と訴訟以外の紛争処理(ADR)とに分けられる。国内外の文献および国内外での調査を基礎に、以下のような研究成果を得た。 1 諸外国の民事訴訟における専門的知見の利用 (1)ドイツ((1)独立証拠調べ、(2)公選艦定人、その他の専門分野の艦定人名簿、(3)商事部等における参審制の採用) (2)フランス((1)レフェレによる訴訟提起前の艦定、(2)鑑定人の主導による鑑定手続、(3)鑑定人名簿の完備と鑑定人協会による鑑定人研修) (3)アメリカ((1)弁護士の専門分化、(2)専門家証人・私鑑定、(3)裁判所の選任による専門家の関与) 2 わが国の民事訴訟・ADRにおける専門的知見の利用の改善方向 (1)鑑定の改善…鑑定人候補者名簿の完備、鑑定手続の改善(鑑定事項を決める段階での鑑定人の関与、鑑定書の簡易化、口頭による鑑定の積極的活用、鑑定人尋問についての裁判所による適切な訴訟指揮) (2)裁判所調査官の位置づけ…裁判官に対する情報・意見の書面化などにより当事者に開示するのみならず、当事者の反論や意見表明の機会を保障することが必要である。将来的には、知的財産分野の裁判所調査官の制度は縮小し、他の専門分野は専門委員制度の拡充によって対応すべきである。 (3)証拠調べ前の専門的知見の利用…提訴前からの専門的知見の利用拡大を考慮すべきである。証拠保全手続、提訴予告通知によって調査嘱託や専門家の意見陳述とならんで、証拠収集という限定なしに、専門的知見を利用する途を確保すべきである。医師・建築士などの専門家集団は、その専門職の義務として、素人が容易にアドバイスを得られる窓口を設けて、積極的に対応すべきである。 (4)ADRの改善…ADRに関する広報活動が必要である。ADRの運営機関は、対立する当事者間の紛争解決をもたらす技術・能力を養成する研修を実施し、その修了を要件としてADRに関わることを許す制度を設けるべきである。
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