研究概要 |
資本市場のグローバル化が急速に進行している。そして資本市場の圧力で公開会社の統治・監査機構の収れんの可能性が強まっている。国際会計基準(IAS)を機軸とする会計基準の世界的な統一化は,資本市場の世界的統合の前提であると同時に,その帰結でもある。資本市場を念頭においた統治・監査機構は,経営者の評価と選任手続きの透明化を求めると同時に,企業の開示する財務諸表の信頼性の確保を重視する。けだし,資本市場志向型の統治システムの担い手は,従来のメインバンクのような,会社との密接な関係を前提とした内部者ではなく,基本的には企業の外部にいる多数の資本市場参加者だからである。その法的形式は一定ではないとしても,企業内に会計統制をはじめとする内部統制制度を整備し,その実効性を確保すること,内部統制の有効性を経営者から独立した立場で評価する内部組織の確立,内部組織の協力しながら財務諸表の信頼性を監査する独立した会計監査組織,そしてこれらの監査組織の活動を評価し,その独立性を支援するための,経営者からの独立性の高い監督組織が求められる。わが国の法制度について言えば,経営者の選任・評価を担う取締役会の改革とともに,従来は経営者の行動の適法性の確保を中心とした監査役制度が,財務諸表の信頼性の確保の担い手となることが期待される。 資本市場を志向する企業経営は,企業の財務活動の柔軟性をも要求するが,この点では伝統的な資本維持制度との対立が先鋭化する。特に平成6年商法改正以来の自己株式の取得規制の緩和,消却特例法の制定,そして近時の金庫株の全面自由化の動きは,資本維持制度のなし崩し的形骸化を象徴する。資本制度や資本準備金制度の持つ意味を根本から捉えなおしたうえで,資本市場志向型経営の中での債権者保護のあり方を探ることが求められる。
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