(1)平成12年度は、国内の継続的契約紛争事例のピックアップおよび、外国における類似事件のピックアップ、さらには関連文献の収集を主な目的としたが、とりわけ80年代より多くの継続的取引契約に関する紛争事例の存する米国判例を中心にピックアップを行った。 (2)米国判例の検討を通じ、契約の解消・損害賠償という従来の契約責任論において当然視されてきた効果論のみをもってしては、裁判後も継続する当事者の継続的な取引関係の維持・発展という観点からは不十分であることが判明した。 (3)また、かかる古典的な契約責任論の考え方の克服を目指し、米国においては近時、新たな判例動向が展開されつつあることも判明した。 (4)さらには、かかる判例動向に相応して、学説上も極めて興味深い提言がなされていることが明らかとなった。 (5)とりわけ、当事者間の関係が破壊された場合の裁断的な責任ルールとして損害賠償、契約の解消を中核として論ずるという従来の「過去志向的な」契約責任論のアプローチではなく、むしろ当事者間の将来も継続するであろう契約関係を円滑に促進するための規範として契約ルールを捉えようとする、いわば「将来志向的な」観点に基づいた新たな解釈理論が提示されつつあることが明らかになった。 具体的には、過去思考的な契約「責任論」思考に基づいた、意思表示の取り消し、ないし契約の解除・損害賠償、という従来型の効果論では、上記契約紛争の実態に適合的な解決を与え得ないことが判明し、むしろ各種の社会規範と共同しつつ、当事者間の交渉促進を促すための「再交渉義務」「情報提供義務」、さらには裁判所における「契約改訂判決」こそがより重要な役割を担うべきものであることが論じられていることが判明した。
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