1.本年度は、米国と日本における継続的消費者契約紛争の実態を調査し、そこで実務的にいかなる新たな契約法理論が求められているのかをさらに検討した。 2.具体的には、契約の解消、損害賠償といった「過去志向的」な契約法の効果論だけでは不十分であり、むしろ契約の改定を中核とした、より当事者の将来的な関係構築に思考した契約法理が求められていることが改めて判明した。 3.しかし、依然として我が国および、米国の通説的見解は、契約責任論を論ずるにあたっては、契約の解消・損害賠償という過去志向的な効果論のみを論ずる強い傾向がある。 4.そこで、本研究では、これまでほとんど光のあたってこなかった、契約の改定論を中核に、当事者の将来的な関係構築のための契約法理論の構築を行うため、契約の改定のみならず、より効果論分析の観点を広げるために、現在米国において大きな関心を呼んでいるいわゆる「救済法理論」へと研究の射程を広げることが極めて重要であると考えるに至った。 5.英米法における救済法論(law of remedies)とは、大陸法で言うところの実体法と手続法の中間領域であり、実体法的観点からすれば、「要件・効果」論のうち、より「効果論」と密接な関係を持つ法領域である。また、ある米国の重要な研究によれば、この救済法論は、たんなる実定化された法の効果論だけではなく、ADRや、あるいは当事者間の交渉関係による問題解決までも射程に含めるものであるとされている。ここでは、実定契約法規範と、当事者の交渉規範との交錯に関心を持つ見解も萌芽的に現れており、本研究にとっても極めて示唆するところが大きい。 6.本年度においは、以上の観点から、「当事者間交渉関係」に関する論文を書き終えた。これは2003年夏に公刊される予定である(還暦記念論文集のため、正確な公刊日程は未定。よって、裏面には記載しない)。さらに、契約法理論に関する論文を現在執筆中であり、これは平成15年度初夏までに公表の予定である。
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