平成15年度は、これまでの実態調査、文献検討をもとに、継続的消費者契約紛争における、消費者自身の自己決定のあり方に関する論文を作成した。この研究においては従来の我が国の契約法学が、一方では「自己決定と自己責任」を担えるだけの、合理的で、「強い」当事者像を前提としており、このような当事者像をいわば現実の消費者にあてはめることで、一見消費者保護を目的としているように見えながら、その実は逆に「自己責任」の名の下に、多くの責任を当事者に負わせる結果となっていることを明らかにした。また、他方では、従来の契約法学は、「消費者保護」の名の下に、当事者の自己決定の尊重よりも、法的な正義の実現を優先することとなっていることを明らかにした。本論文ではこのような、従来の「自己決定と自己責任」、「正義の観点からする消費者保護」という考え方に代えて、現実の当事者はむしろ「悩み・揺らぐ弱い個人」という当事者像を考慮にいれることが重要であり、また、その場合においては当事者の自己決定を尊重する「自律支援」という原理を広く民事法学全体において位置づけることが重要であると論じた。さらに、具体的な支援の手法に関し、従来の契約法学が検討対象としてきた「ルール」のみをもっては不十分であり、支援の原理を具体化するためには「技法」という局面を焦点に据えねばならないことにつき具体的に考察を加えた。そして、この「技法」という当事者関係を促進する局面を考慮にいれて初めて、当事者の自己決定を尊重する契約法ルールはその目的を実現することが可能になることを論じた。
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