本年度は、特約店契約などの継続的契約の法的性質を検討するために、その1つの素材となる契約当事者の交替について研究した。すなわち、契約譲渡の主たる対象が継続的契約であることには、今日では異論がない。そして、判例においても、現実に問題となるのは、継続的な商品の売買契約やメンテナンス契約などの継続的契約である。そして、これらの継続的契約の多くが、当事者の人的資質を考慮した契約であることを示唆するのが、近時のフランスにおける「枠組契約」(contrat-cadre)の理論である。ここにいう枠組契約の理論とは、長期にわたる継続的契約につき、当事者間の基本的な枠組みを定める「枠組契約」と、そこから派生し、その枠組みを具体化する複数の個別的契約(売買など)からなる「実施契約」(contrats d'application)とに区別するものであり、わが国の継続的契約における「基本契約」と「個別契約」の区別に対応する。そして、枠組契約には、たいてい、相手方(供給者=特約店契約の場合には、許諾者-筆者注)が譲受人を承諾する旨の同意条項が契約譲渡の条件」として明記され、人的資質を考慮した契約(intuitu personae)であることが、(枠組契約書に)刷り込まれている(imprime)とされる。かかる指摘は、枠組契約の締結過程を考慮すると、適切である。というのも、供給者は、右契約を締結するに際して、多くの候補者の中から、その職業的適性や(自己の商品の)販売地としての特性などの客観的な資質を基準として、パートナーの選択を行うのが通常であるからである。そうだとすれば、継続的契約の中でもとりわけ、現代の経済社会において重要な地位を占める枠組契約(基本契約)の多くは、相手方当事者の人的資質を考慮した契約であり、その譲渡は原則として許されず、相手方(供給者・許諾者)の承諾が要件となると解される。
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